大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(行ツ)187号 判決

兵庫県伊丹市東有岡一丁目二〇番地

上告人

日本テレビチユーナー株式会社

右代表者代表取締役

大橋環

右訴訟代理人弁護士

佐藤義行

河村信男

宇佐見方宏

小松哲

兵庫県伊丹市千僧一丁目四七番三号

被上告人

伊丹税務署長

茨木清

右指定代理人

立花宣男

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五八年(行コ)第六一号法人税更正決定等取消請求事件について、同裁判所が昭和六〇年七月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。

よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤義行の上告理由第三点、第四点について

所論の点に関する原審の判断は、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一点について

所論の点に関する原審の判断は、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする憲法三一条違反の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

同第二点について

本件拠出金還元金規約の締約会社六社のうち更正処分を受けたのがたまたま上告人のみであつたとしても、そのことのみで上告人に対し差別的取扱いがあつたものということはできないから、右差別的取扱いがあつたことを前提とする憲法一四条一項違反の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高島益郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎)

(昭和六〇年(行ツ)第一八七号 上告人 日本テレビチユーナー株式会社)

上告代理人佐藤義行の上告理由

第一点

一 青色申告書に対する更正の理由付記についての判例違反

1 本件更正処分に伴う理由付記は、憲法三一条に違反し、又、法人税法一三〇条二項に違反するものであり、判決に影響を及ぼすべき重大な法令違反がある。

2 被上告人は、本件更正処分をするにあたり、「雑損失勘定に仕入拡張費として計上したグループ各社による拠出金の支出は、金銭の贈与であり、寄付金と認める。」旨理由を付記した。ところで、この更正処分の対象となつたものは、上告人が拠出金支出と還元金収入の差額を、仕入拡張費として損金経理したものである。即ち、この損金処理につき、拠出金の支出が金銭の贈与であり、寄付金であると、理由を付記して、拠出金と還元金の差額金を否認したものが本件更正処分である。

そして、この理由付記については、〈1〉贈与日時、〈2〉贈与の相手方、〈3〉仮払金に計上した拠出金のうち、雑損失に計上した額のみが何故贈与になるのか、〈4〉如何なる帳簿書類に計上された金額を否認するか、〈5〉その帳簿書類の記載以上の信用力のある資料の摘示があるか、という点については全く明示されていない。

3 この点について、原審裁判所は、(1)本件更正処分は、帳簿書類の記載を否認して更正する場合ではなく、計上された申告金額を認めたうえで、その金額の計上すべき勘定科目の判断、すなわち、税法上の法的評価を異にした場合であること、(2)法的評価の判断のみの場合は、どの事項についてどのような法的判断のみの場合は、どの事項についてどのような法的判断をしたかを明らかにしうる程度に記載すれば足りること、(3)拠出金支出が贈与にあたると認定し、拠出金と還元金との差額の損金算入が否認されたものであり、差額が贈与であるとしたものではなく、このことは本件付記理由からも明らかであること、以上の理由から付記理由として欠けるところはないとしている。

4 ところで、理由付記の程度については、原審判決がそのまま引用される第一審判決中において挙示される一連の最高裁判例〔(イ)昭和三八年五月三一日第二小法廷判決、民集第一七巻第四号六一七頁、(ロ)同年一二月二七日第二小法廷判決、民集第一七巻第一二号一八七一頁、(ハ)同四七年三月三一日第二小法廷判決、民集第二六巻第二〇号三一九頁、(ニ)同年一二月五日第三小法廷判決、民集第二六巻第一〇号一七九五頁、(ホ)同五一年三月八日第二小法廷判決、民集三〇巻第二号六四頁、(ヘ)同五四年四月一九日第一小法廷判決、民集第三三巻第三号三七九頁〕において明示されている。(イ)の判決においては、「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき、調査差益率により基本金額修正、所得金額更正す」という付記理由につき、「いかなる勘定科目に幾何の脱漏があり、その金額はいかなる根拠に基づくものか、また調査率なるものがいかにして算定され、それによることがどうして正当なのか、右の記載自体から納税者がこれを知るに由ないものであるから」違法だと判断している。(ホ)の判決においても「土地評価減一、三〇八、五一二円。北九州市八幡区本町五丁目秋田商会木材株式会社より譲り受けた下関市幸町八の三宅地六七、八九坪の譲り受け価額が時価に比し著しく低い価額であり、時価との差額は贈与を受けたものと認められるから評価減をなしたものとして益金に加算する。時価二、二四三、四一五円。譲り受け価額九三四、九〇三円。差引一、三〇八、五一二円。」という理由付記につき、「時価がいかなる根拠、基準に基づいて算出されたものであるのかが示されていない」として違法だと判示している。

これら一連の判決につき、原審は、「帳簿書類の記載を否認して更正する場合」の理由付記の程度に関する判示であると位置付けている。そして本件の場合は、「帳簿書類の記載を否認して更正する場合ではなく、計上された申告金額を認めたうえで、その金額の計上すべき勘定科目の判断、すなわち、税法上の法的評価を異にした場合」であるから、前記一連の判決の射程距離外の問題であり、一連の判決のような厳格な理由付記はいらないとしている。

5 しかし、この原審の判断は、次の二点において、大きな誤りを犯している。第一は、右の一連の最高裁判決を全て「帳簿書類の記載を否認して更正する場合」と位置付けている点、第二は、本件の場合を帳簿書類の記載を否認せず、単に税法上の法的評価を異にした場合にすぎないとしている点である。

6 第一の点について、原審の引用した(ハ)の判決においては、「借地権計上洩金三三〇万円」という付記理由について、課税庁側が申告者の帳簿記載を否認しない更正の場合にあつては、「せいぜいのところ加算科目と付記すれば足りる」と主張したにもかかわらず、その主張を却け、「所謂、借地権について帳簿の記載に誤りがあるという趣旨であるのか、あるいは、所論のように前記三一条の三(同族会社の行為計算の否認)を適用した結果であるのかさえ不明である」と判示して違法としている。即ち、この判決は、少なくとも「帳簿書類の記載を否認して更正した場合」の判例ではなく、むしろ法的評価に関する判例であると位置付けることができる。そしてこの判例から明らかなことは、法的評価に関するものでも、加除算科目と金額を付記しただけでは足りないということである。

ところで本件の場合「仕入拡張費として計上したグループ各社による拠出金の支出は金銭贈与であり、寄付金と認める」との付記理由で、拠出金と還元金の差額金である仕入拡張費の損金を否認しているのであり、付記理由と、更正処分の対象との間に明白なズレを生じている。即ち、この付記理由からすると(1)拠出金は、寄付金として全て損金処理を否認され、他方還元金は全て寄付金の受入として益金加算されることになり、拠出金と還元金の差額金のみが損金否認の対象となるという結論とは結びつかないこととなり、(2)一方、差額金のみの損金計理を否認する理由としてこの差額金を寄付金と考えるならば拠出金が寄付金に該るという付記理由になつていないことになる。こうした明らかな理由齟齬は、(ハ)の判例の場合以上に、納税者に積極的誤解をもたらすものであり、悪質であると言わざるを得ない。この原審判決は、「拠出金が贈与にあたると認定し、拠出金と還元金との差額の損金算入が否認されたものであり、差額が贈与であるとしたものではなく」と判示しているが、このことは「拠出金=寄付金、寄付金=損金不算入よつて、拠出金-還元金=損金不算入」という理解不可能な等式の成立につき付記理由に欠けるところがないと強弁しているにすぎない。

7 第二の点。本件の場合は法的評価の問題ではなく帳簿書類の記載を否認する場合であること。

原審は、「計上された申告金額を認めたうえで、その金額の計上すべき勘定科目の判断を異にした場合であるから法的評価の問題である」としている。しかし、本件の場合、原審判決の大前提である「計上された申告金額」そのものが認められていない。即ち、「計上された申告金額」は拠出金と還元金の差額金である仕入拡張費であるが、「法的評価」の対象となつたものは拠出金であり、仮払金処理されてきたものを寄付金とすべきだと「法的判断」がされたのである。今仮に、拠出金一〇〇〇万円、還元金三〇〇万円と言う場合を考えてみる。計上された申告金額は、差額金七〇〇万円の損金処理である。そしてこの七〇〇万円の損金処理が結果として否認されたのである。ところが、法的評価の対象となつたのは、一〇〇〇万円の拠出金であり、これが寄付金として損金処理を否認されたのである。帳簿書類の記載の対象となる事実を差額金の七〇〇万円だとするならば、帳簿書類外の事実で、これを否認していることになる。又、帳簿書類の記載の対象となる事実を拠出金の一〇〇〇万円だとするならば、否認の結果は一〇〇〇万円の損金不算入となるはずであり、「計上された申告金額」を何ら認めていないことになる。

したがつて、いずれの観点からも、帳簿記載を否認している場合といわざるを得ず、その場合、前述の一連の最高裁判例からみて〈1〉贈与の目的〈2〉贈与の相手方〈3〉仮払金に計上した拠出金のうち雑損失に計上した額のみが何故贈与になるのか〈4〉如何なる帳簿書類に計上された金額を否認するのか〈5〉その帳簿書類の記載以上に信用力のある資料の摘示があるか、について何ら明示するところのない本件理由付記は、違法と言わざるを得ない。

第二点

本件更正処分の憲法違反ならびに判決に影響を及ぼすべき重大な法令違反

一 本件各更正処分は憲法一四条一項に反する適用違憲、運用違憲の違法がある。

1 本件各拠出金は、チユーナーグループ各社間において締結された本件規約所定の支出要件によつて支出されたものである。そしてこの拠出金を支出したのは上告人のみでなく、グループ各社に共通するものである。

ところで右チユーナーグループ各社のうち、日本チユーナー、ワールドチユーナー及びチユーナー商事は東京国税局管内に、結城チユーナー及び那須チユーナーは関東信越国税局管内に、上告人は、大阪国税局管内に各納税地を有するものであることは当事者間に争いがない。

ところが、上告人のみが、本件規約に基づく拠出金について寄付金と認定され、拠出金と還元金の差額金について損金算入が否認された。上告人を除くグループ各社はこの点について何らの更正処分も受けず、上告人のみが被上告人より更正処分を受けたのである。右事実については、被上告人もこれを認めており、当事者間に争いはない。

而して、上告人以外のグループ各社の各所轄税務署長は、拠出金が寄付金に該るか否かにつき、それぞれの管轄国税局である東京国税局又は関東信越国税局の見解を求め、さらに両国税局は国税庁(審理課及び法人課)に見解を求めた結果、寄付金にあたらないものとして、いずれも更正処分にしなかつたのである(上告人=控訴人昭和六〇年三月二六日付準備書面第一)。

2 右の事実ならびに甲第一号証の一・二、甲第二号証、甲第三号証の一・二からも明らかなように、他のグループ各社と全く同一の拠出金支出要件であり、全く同一の経理処理であるにもかかわらず、一人上告人のみが拠出金を寄付金と認定され、更正処分を受けたことは、取扱いにおいて明らかな憲法一四条一項に反する、違法があるといわざるを得ない。

本件更正処分は、後述のとおり(第三点)、処分理由に合理性を欠き、違法な解釈に基づく処分であるため、形式的にも又実質的にも平等原則に反するものである。

ところでいま仮に、外形的な取扱いという面だけに着目したとき、その取扱いの不平等は被上告人も明らかに争わないところであり、形式的不平等の存在は歴然としている。

この形式的不平等の取扱いが存在する場合には、少なくとも差別した側(=被上告人)が合理的差別であることを主張立証する要がある。そしてこの合理的差別の主張立証は、少なくとも、他とは異なつて差別するその合理性を主張・立証するものでなければならないから、形式的平等取扱いの不合理を積極的に主張・立証するものでなければならない。

即ち、本件の場合にあつては、(1)上告人を除く他のチユーナーグループ各社の取扱いの合理性の根拠、(2)上告人のみを差別する合理的根拠を具体的に明らかにするものでなければならない。

3 この点、第一審判決を引用した原審判決は、「各所轄税務署長がいずれもこの点に関する国税庁の見解を求めたうえで、これに基づいて各社の拠出金を寄付金と認定しなかつたことを認めるに足りる証拠はなく、また、本件における被告の判断が正当であることは前述のとおりである。」としているのみで、形式的不平等を前提にしながら、その合理的差別の主張・立証責任を上告人に負わせる判決をしている。これは明らかに採証法則を誤つた判決に影響を及ぼすべき重大な法令違反であることも合せて主張する。即ち、一人上告人が更正処分を受け、他のグループ各社は全く同じ拠出金還元金規約に基づきながら、更正処分を受けなかつたという形式的不平等取扱いに対し、他のグループ各社が更正処分を受けなかつた合理的理由の主張・立証につき上告人の主張・立証が不充分だから不平等とは言えないというのは、明らかに採証法則を誤つている。さらに右各国税局及び国税庁内部における審理についてその経過ならびに結果を上告人において立証することは不可能(国家公務員法一〇〇条)な事柄に属し、この点からも、右立証責任は被上告人にあるというべきである。

第三点

判決に影響を及ぼすこと明らかな法令解釈の誤りならびに法令解釈の判例違反がある。

一1 原判決は、「法三七条五項に定める寄付金とは、前示(原判決二七枚目裏一行目から八行目まで)のとおりである」という。右原判決にいう寄付金とは「どのような名義をもつてするかに関係なく、対価性のない金銭その他の資産又は経済的利益の給付又は供与であつて、同項かつこ書き所定の広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除くものをいい、事業関連性の全くないものに限定されるものではないと解するのが相当である」というのである。

そうだとすれば、租税特別措置法六二条三項(以下単に「措置法」という)にいう「交際費等」と原判決にいう「寄付金」とは、どのように法解釈論のレベルで概念を確定し、その相異を明らかにすることができるのであろうか。

即ち、措置法にいう交際費等とは、「法人が‥‥‥事業に関係のある者等に対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」をいうと規定されているのであるから、明らかに事業に関係のある者等に対する対価性のない経済的利益の給付又は供与たる接待・供応・慰安と金銭その他の資産の給付たる贈答は交際費に含まれ、原判決が寄付金という「金銭その他の資産又は経済的利益の給付又は供与」と異なるところはなく、寄付金と交際費との法解釈上の概念(意義)は同一であるということに帰する。この点のみをもつてしても、原判決が判示する法人税法三七条五項の寄付金の解釈は誤りであることは明白である。

そして、このように、寄付金と交際費の意義を区別し得ないような解釈の下で、寄付金について「交際費‥‥‥とされるべきものを除く」と判示したからといつて、両者の意義、概念が明確とならないこともまた多言を要しない。

2 これを要するに寄付金は、事業関連性のない資産又は経済的利益の給付又は供与を指し、交際費は、措置法上の文言に照らして明らかなように「事業に関係のある者等」(ここに「等」とは近く事業に関係の生ずる相手先及び支出する法人の従業員を指すとの解釈論がほぼ通説といつてよい)に対する資産又は経済的利益の給付又は供与を指すものと解すべきである。

3 而して、神戸地方裁判所昭和三八年一月一六日判決(行裁例集一四巻一二号二一四四頁)は、寄付金とは「法人が相手方に対し直接法人の事業と関係なく、かつ対価の授受なく無償で贈与した金銭その他の財産的給付をいう」としており、原判決は、右先例判決にも背反するものである。

4 果たしてしからば原判決は、法人税法三七条にいう寄付金の意義についての法解釈を誤つた(右判例違反を含む)結果、上告人を含む本件チユーナーグループ各社が共通仕入に係る部品メーカーの新仕入先開発のための拠出金という明らかに直接事業と関連する支出について寄付金に当たるものとして、損金算入を否認した本件処分を適法と判示したことは、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令解釈の誤りと判例違反の法令解釈である。

第四点

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りがある。

一1 仮に、法人税法三七条にいう寄付金に、事業関連性のある支出(費用)が含まれるものと解するとしても、なお、本件拠出金は、同条の寄付金に当らないから、右寄付金に当たるものとして、被上告人の本件更正処分を適法とした原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りがある。

2 寄付金を商法上の確定決算において利益処分をもつて処理したときは格別、企業会計上損金の額に算入したときは、法人税法二二条四項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算された」ものとして損金の額に算入されるべきところ、同法三七条二項は、損金算入限度額を設けて一定以上の損金算入を認めないものとしている。したがつて右三七条は、同法二二条二項にいう「別段の定め」に当たるものであること言うまでもない。

3 ところで、原判決が引用する第一審判決も認めるとおり、本件拠出金は、上告人を含むグループ各社が、同一の部品メーカーに納期を同じくして大量発注することによつて必然的に生ずる納期遅延、不良品の納入、価格高騰を防止すべく、甲第一号証の規約を合意し、同一部品を複数の仕入先から購入することによつて、納期の厳守、精度の高い部品の確保と独占納入による一方的部品単価の値上げ要求を防止する自衛策として、グループ各社の中で、費用の出損と技術指導をして新規部品メーカーを開発した会社及び(若干の不便と不安を感じながらも)新規部品メーカーから部品購入をした会社に対し他のグループ会社が開発費及びリスク料(以下「開発費等」という)を負担することを根幹としたのが本件拠出金・還元金規約である。

拠出金は右開発費等の支払源資(条件付支出)であり、還元金は開発費の分担に他ならない。新規部品メーカーを全く開発しなかつたとしたならば、還元金を受領する会社はなく、さすれば拠出金を支出する必要もなく、右規約は自然消滅することとなる(現に昭和五九年をもつて、新規部品メーカーの開発の要がなくなりグループ各社の合意により本件規約は解約された)。

4 なお原判決は「本件規約によつても、新たな仕入先を開拓することなく、‥‥‥指定仕入先とされなかつた仕入先から部品を仕入た場合においても、還元金収受の対象とされていた」と判示しているが、その趣旨を理解することができないことを付言しておく。

5 以上の次第で、本件規約に基でく拠出金と還元金の差額の性質は開発費であり、仕入拡張費という勘定科目で損金の額に算入した上告人の会計処理は法人税法二二条二項及び三項によつて損金の額に算入されるべき額である。

よつて、原判決は、右仕入拡張費を寄付金であるとして、同法三七条二項を適用し、本件更正処分を適法と判示したことは正に法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすこともまた明らかである。

二1 もつとも右開発費たる仕入拡張費は、その支出の効果が数年にわたるところから、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則(企業会計原則注解一五参照)、商法二八六条の三、法人税法二条二五号、同法施行令一四条一項五号の繰延資産に当るのではないかとの疑問はたしかに残る。いや繰延資産に当り、一時の損金とはならず、相当期間(この期間を何年とすべきかは限り無く困難な問題ではある)にわたつて均等償却の方法により順次損金の額に算入すべきものであると断すべきものであろう。

2 しかし本件においては、上告人は青色申告法人であるから、被上告人も裁判所も、被上告人の本件更正に係る処分理由に拘束され本件開発費等が「寄付金」に当るか否かの主張・立証とその判断しかできない事案なのである。

しかし、だからといつて法解釈を曲げてまで寄付金に当るとの判断が許されるわけでもないこともまた詳論するまでもないところである。

以上の次第で原判決を破棄し、本件更正処分ならびに過少申告加算税の賦課決定処分を取消されたく、本件上告に及んだ次第です。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例